インターネット座談会

公共ホールの音響技術者たち

小屋付音響技術者の心意気《良いホールってなんだろう》

日本音響家協会では協会員の自薦・他薦による「優れた」公立の劇場とホールを厳正に審査した上で「ホール100選」を選定する作業をすすめています。そこで優良ホールに選ばれた施設の音響技術者の皆さんに、日常の業務のことや、そこで工夫されていること、こうありたいという理想のホール像について語りあっていただきました。

  

佐藤  鐵(旭川市大雪クリスタルホール・1級音響技術者)

高崎 利成(栃木県総合文化センター・1級音響技術者)

市川  悟(彩の国さいたま芸術劇場・1級音響技術者)

木佐貫貞夫(新潟市民芸術文化会館・2級音響技術者)

山本 広志(富山県民会館・1級音響技術者)

長谷川圭一(富士市文化会館ロゼシアター・1級音響技術者)

八板賢二郎(日本芸術文化振興会・1級音響技術者)

(2000年収録)

八板:今日はいわゆる「小屋付」と呼ばれるホールの運営・管理をされている皆さんに、施設運営の状況などについてお話をしていただきたいと思います。

私がこの仕事を始めたころ、30年も前のことですが、ホールには「小屋付」とよばれる常駐の音響技術者はほとんどいませんでした。ホールの音響の仕事もたいしたことはなかった。しかし、やがてホールの音響設備が進化し、ホールの音響の仕事は少しずつ高度になり、専門の技術者が必要になってきました。そして、単なる貸ホールでなく自主公演をするホールも多くなり、ホールの専門技術者が作品作りに携わるようになってきました。その分岐点となったのは、彩の国さいたま芸術劇場のオープンではなかったでしょうか。したがって現在では「自主公演を主としたホール」「貸館を主としているが積極的に舞台運営に参加しているホール」「管理に徹して作品作りには参加しない従来のホール」に分けられるのではないでしょうか。市川さんのところは、自主公演が主の運営をしていますね。

市川:そうですね。そのためプロパー(専門家)がいて積極的に作品作りをしています。この形が全国のホールに注目されたように思います。

八板:市川さんは、以前、ホールを利用する側におられたのですが、今度は小屋付になって、施設を管理する側と利用する側の両方の立場をご存知ですね。そこでお伺いしたいのですが、ホールを利用する人たちの中には「ホールの設備は使えない」という意識の人が多いということは周知のことです。これについてどのようにお考えですか。

市川:うーん。私たちの劇場は機材がいろいろありますから、劇場の機材を使ってもらうことが多いですね。自主公演の場合は、劇場にある設備は何でも使っていただいています。また海外から招く公演では、機材が指定されてくる場合があるのですが、うちの機材で代用できないか、なるべく使用してもらうようにしています。しかし、貸し館の場合はそうも行きませんね。

八板:なるほど。しかし、それは運営の体制がきわめて恵まれたケースであるといえるかもしれません。高崎さんがいらっしゃるホールは「貸し館」スタイルではないかと思うのですが、どのような方針で運営していますか。

高崎:たしかに僕が勤務する栃木県総合文化センターは、いわゆる典型的な「貸し館」型の公共ホールといえます。僕達の仕事は「小屋付」と呼ぶのには馴染まないので、「ホール技術担当者」と呼ぶようにしています。僕は栃木県総合文化センターにはオープン時から委託業者として入ったのですが、まずは設備をきちんと管理して、担当者全員が、ここにある全部の機材をきちんと使いこなせるようになろう。そうして、僕らはホールの全機材を「常に使える状態にしておこう」「オープン当時の最低限のホール機能を常に維持しよう」ということを徹底してやっているんです。そのためにホールの奈落に作業場を自分達で作りました。ここで舞台、照明、音響、それぞれ最低限の修理は出来るようにしたわけです。ホールの設備というものは、少しでも弱い部分があると、自信をもって貸し出すことができないんですね。反対に、設備がよければ「こういうやり方がありますよ」という提案型のホールになりますから、対応の良いホールになります。

八板:それは非常に大切なことですね。「ホールの設備は使えない」と言わせないとうことですね。そのように普段から自分達の手で機材を手入れすることができれば、利用者に対して適切なアドバイスをすることができる。そこから前向きに仕事をするという姿勢が生まれてきます。ホールの評判が悪い原因は、「そんなことはできない」という否定的な姿勢ですね。

山本:富山県民会館では、1964年にオープンした結構歴史のあるホールです。会館当初からホール専門職員がいて管理を行っていました。多分、当時は今のように専門業者がいなかったので、すべて職員が催事に携わってきたのだと思います。それがいまでも引き継がれ、ツアーや大掛かりなイベント以外は、会館職員が行っています。地元の舞踊や民謡でも舞台美術、照明は業者が請け負うことがあっても、音響はホールスタッフで依頼されるという例もあります。当然のことですが、設備、機材はいつも正常に作動することに心がけております。不良個所があれば、その内容によっては、早急に修繕に出したり、コネクタやコードなどの簡単な修理は迅速に行うようしています。

佐藤:私の勤務している旭川市大雪クリスタルホールは、ホールの構造が、クラシックの室内楽専用ホールということもあり、拡声用音響機材を重視される利用者の方は殆どいないため、ホールの機材が使えないという不満はありません。外から来る人たちが持ち込みでやるとき、室内楽専用ホールに慣れていないので、通常の多目的ホールのように上下の袖にスピーカを設置して、大音量大音圧を出して、苦労しているのを見かけます。事前の打ち合わせで、ホールの構造や特性を詳しくお伝えしているのですが、理解していただけないようです。アドバイスしても「うるさい小屋付のおやじ」と思われて邪魔にされているのが現状です。このようなことは、特にプロと呼ばれているオペレータの方に多いですね。

長谷川:私の勤務する富士市文化会館は、大、中、小の3つのホールがあります。地方の市民会館ですのでいわゆる貸し館が中心ですが、会館の自主事業としてオペレッタやミュージカルの公演を行っています。舞台職員の通常の業務は、ホールの機能、機材を最良の状態で維持し、地域住民の文化活動発表の場としてホールの運用をすることです。それとは別に創作事業のときには、音響プランの作成から本番当日のオペレートまで長期にわたって作品創造に携わります。会館機材が本来の機能が維持されていないと、貸し出すときも自分達が使うときも困るわけですから、ホールにある機材は常に使える状態にするよう心がけています。また、舞台職員の数も3ホールで10名と決して多くないので、必要な機材がすぐに使える状態で身近にあることも重要だと考え、3ホールで一番使いやすい場所にある楽屋倉庫を音響用倉庫として使うなどの工夫をしています。

木佐貫:皆さんのお話を伺っていると、私の職場である新潟市民芸術文化会館は、いわゆる創造型ホールと、貸し館ホールとのちょうど中間的な性格を持っているようです。ホール自体は、コンサート・劇場・能楽堂の3つで、今年度160以上の自主事業を行っています。市の芸能協会所属団体の発表会なども含んだ数字ですが、地方都市の文化会館の自主公演数としては、ずいぶん多いほうだと思っています。ただ、あくまでこれは、ホール自体の話であって、当館は建設段階から発信型文化会館を目指し、話題もふりまいてきたわけですが、現在のところホールオリジナルの事業でも、我々舞台技術係の者がプランを任される催しはごくわずかです。これはもちろん、わたしたちの技術力不足が一番の原因なのですが、いつか自分たち主体で催しを立ち上げることを目標に、研鑚を積んでいる状況です。

市川:私たちの劇場の音響スタッフは9人いるのですが、キャリアもさまざまです。そのスタッフで4つのホールと12の稽古場を管理運営しています。メンテナンスは契約会社がやっていますが、自分たちが使いやすいように、利用者も使いやすいように、改良や修繕をしています。

高崎:施設管理という点では、いつも機材が正常に動く、動かせるというのが最低限だと思います。あと、予算があるということかな(笑)。それから「人材」ですね。

  

公共ホールの音響設備の在り方

市川:最近、ホールに音響設備はいらないという考え方もありますね。最小限な設備があればいいと。電源や卓を置くテーブルを借りるだけで、あとは全部持ち込みということも少なくありませんね。特にツアーの場合は、仕込み時間などを考えると、既存の設備はほとんど使いません。

高崎:それは都市部のホールの話ですね。栃木のように地方にある公共ホールの場合は、施設使用者といってもアマチュアがほとんどです。そういう場合は既存の設備が絶対必要です。お稽古ごとの発表会など、ホールを使われる人達は公演のときにどうやってアナウンスの音を出すのか、照明をあてるのか。あたりまえですがそういう知識をもっているわけではないんですね。でも、上演されるときには完成された立派なものに仕上げてあげなければならないんです。僕らも日常的にそういう仕事ばかりですが、そのためにはスタッフ総動員で使えるだけの機材をフル活用しています。ですから、使い勝手という意味ではいろいろ問題があるかもしれませんが、栃木のような場合では、やはり機材が揃っていて欲しいと思います。また、自主公演をする場合は、いちいちレンタルで間に合わせるわけにはいきません。どの程度のものが必要なのかということについては、ホールの運営のやり方に深く関わってくるといえるでしょうけど・・。

八板:公共ホールに音響設備はいらないという極論は、機材費でないとお金を取れない外部の人たちの方便でしょう。それでも、最近は外来音響会社も既存の設備を使用するようになりました。不景気で音響費が少ないからですね。「どうせ予算がないのなら既存設備を使ったらどう。その方が仕込みは速いし、この劇場では機材費は必要ないので経費が節減できますよ」とアドバイスしています。式典ごときに大げさな機材を持ち込んでいた音響会社は切られて、既存設備を使用する音響会社に交替しました。制作会社が利口になってきたんでしょう。

それにしても、機材はあるけど使いづらいというホールが多いですね。使いにくいと文句をいっているだけでは何も解決しませんけれど、工夫をすれば快適になると思うんです。急に機材が必要になったとは、すぐにセットできるようになっていれば、腰が軽くなります。マイク1本を仕込むのに、調整室でマイクを箱から取り出して、次にスタンドを別室に取りに行って、ケーブルを探してという段取りでは嫌になってしまいます。

佐藤:私の場合は、調整室から舞台までの通り道に「マイク保管庫→パッチ盤→ケーブルラック→スタンド」という経路ですぐに、出せるようになっています。また、「立ってる者は照明さんでも使え!」ではないのですけれどアナウンス用のマイクチェックをして貰うこともあります。舞台、照明の人たちと協力しあうことが大切ですね。

市川:私たちは数ヶ月に1回は音響スタッフ会議をしています。そこで意見交換をして、使いやすくするために協議しています。

山本:私たちは現在、6名のスタッフでホールを管理しているのですが、すべての職員が、音響、照明、舞台のすべてのセクションを使いこなせるような運営体制をとっています。職員の技術レベルによって、そのクオリティに差がでますが、ベテランが実際に現場でフォローすることで、主催者に迷惑をかけないよう努力しています。

高崎:僕のところはスタッフの人数も多くないホールですから、自分の専門以外の仕事も手伝わないと成り立ちません。私のホールでは照明さんでも「マイクチェック、ワンツー」とプロ顔負けのいい声(笑)で回線チェックを手伝ってくれます。

八板:ユニオン的な発想だと「ひとの仕事に手を出すな」ということになりますが、劇場やホールに勤務する場合は初歩的な仕事はみんな出来るようになつた方が良いという考えもあります。海外の劇場でも、初歩的な仕事は互いに手伝っているところもあります。アメリカのユニオンに所属しない劇場では、互いの仕事をサポートしていますよ。お互いの仕事を知っているということは大切なんじゃないでしょうか。専門的なことだけしか知らないのでは困りものです。

長谷川:おそらく公共ホールは、どこも同じだと思うのですが、舞台に行って最初にやることといったら、看板を吊るとか、反響板を設置するといった初歩的な舞台の設営からだと思います。お互いの仕事を知ることや、作業の段取り、流れがわかるということもとても大事なことだと思います。

 

ホール音響技術者の仕事はたくさんある

市川:そういえば音響の人達って以前はマニアックと言いますか、音の性能の話ばかりしていましたが、最近は変わってきましたね。

八板:昔は「音響なんてひまな人がやる仕事だ」と思われたりもしていたようですが、実は音響って実に長期間、現場に密着して仕事しているんですね。演劇の音響は、稽古のはじめからずっと役者や演出家と一緒にいる。

市川:たしかにそうですね。私の場合も、長くなると数ヶ月間、ずっと稽古に付きっきりになります。

八板:さらに、ホールの音響の仕事というのは非常に広く、そして多いですね。周囲から見ますと音響の仕事は、舞台から出る音だけやっていれば良いと思われがちですが、場内放送、ロビーの音、楽屋のモニターまで担当している。

高崎:インカム、モニターテレビの管理もします。モニター用のカメラの操作や管理は、仕事の内容からいったら照明さんのほうが上手かもしれないんですが、なぜか音響がやることって多いですね。

佐藤:どこのホールでもモニターテレビの管理は音響の仕事のようですね。私のところはホール内の空調の苦情を受けるのも音響の仕事にいつの間にかなっています。特に室内楽専用ホールなので、多目的ホールの方からよく言われるのが「仕事が無くて暇で楽だろう」と、そんなことは無いと思います。ホール内外の音に関することは、全て音響の仕事ではないでしょうか。たとえば演奏者と一緒にピアノであればピアノの位置を決めたり、アンサンブルであれば立ち位置を決め、お客さんにより良い音を聞いて頂けるようにリハーサルにも立ち会っています。

八板:びわ湖ホールの小野隆弘さんは、舞台装置の素材、つまり幕類のことも考えています。たとえば音を反射する幕、音を透す幕、吸音する幕などについてもアドバイスしてオペラの音を良くしている。その上で、電気音響を使用するという手法でやっています。

山本:技術が高度化してスペシャリストになるのは大切ですが、職員全員が安全管理面のスペシャリストにならなければならないと考えています。舞台の定式や、電気知識、消防法、ロープワークなど最低限のことは習得すべきです。

長谷川:映写機やビデオプロジェクタなどの投映機器の対処やビデオ収録業者さんへの送りもあります。設備はいいんだけど会館職員の対応が悪いなどと言われないように、映写技師さんやビデオ業者の方と話をしながら円滑な舞台運用を心がけています。

優良ホールって何だろう

市川:優良ホール100選の基準は、どのようなところにあるんでしょうか。

八板:すぐに機材がどうのこうのという話しになってしまうのですが、いいホールと評価されるのは技術スタッフの資質ですね。最新の立派な機材があれば良いということではなく、古い設備でも、いつも正常に使用できるようにしている技術者がいることが重要です。心の温かいスタッフがいるホールが一番ではないでしょうか。結局「人」です。

木佐貫:実は先日、某音楽事務所に所属している私の友人から、「今度、あるホールの舞台技術者相手に舞台芸術についての講義をすることになったけど、一体何を話そう?」という相談をうけました。聞くと、そのホールは施設管理色が強すぎて苦情が多いため、お役所がそういう講習を行うことに決めたとか。実際そういう管理色の強い新設ホールが多くなっているのでしょうか。

高崎:公共ホールというのは、とくに僕なんかの地方のホールの場合、公演は利用者にとって「晴れの舞台」なんだから、なにがなんでも楽しく安全に出来るようにしたいと思っています。そうはいっても現場ではプロの公演でもはらはらすることも多いです。ホール100選というのを考えるとき、これまで事故がなかったホールというのは実際のところ表彰モノだと思いますよ。プロの仕事というのはぎりぎりのところをやることで面白くなるというのが本当なんです。そのためには、経験豊かなホール専属の専門技術者が必要ですね。

八板:死傷事故は、職員と委託のスタッフの意思の疎通に欠けているところに問題があるようですね。

山本:ホール職員は「管理主体の仕事をしている」と良く思われていないようですが、人間関係が良好でないと安全が確保されないと思います。職員は作業を監視するだけでなく、支障がない限りトラックからの道具、機材の搬入をできるだけ手伝うようにしています。搬出も同じです。これらは、昔から県民会館のホール職員が行ってきたことで、劇団やツアースタッフから好感を持たれているようです。たまには、アルバイトと間違えられて怒鳴られることもありますが、私たちも目新しい機材などが持ち込まれたりすると、その話を聞けたりしてなにかと得をしています。

木佐貫:ほとんどのホールで、舞台技術は管理セクションに所属しているのではないでしょうか。うちもそうなのですが、そうなると、どうしても考えの基本が管理的にならざるをえない。誰の責任というわけではなく、立場的にそうなってしまうわけです。上を見ても、横を見ても、皆そういう考えなわけですから。だから、舞台管理セクションとは別に、利用者やパーフォーマーの立場で、しかも舞台技術者の言葉で管理側と交渉ができるポストが組織として必要なのではないでしょうか。現状では、表現者と管理者とは、まったく異なる次元で話をしているようなものです。だから、「ホールの人間はわからずや」ということになる。これからは、両者の橋渡し的な役割をしなければならないでしょうね。

八板:あれをやってはいけない、これをやっては困るでは、面白い作品はできないんです。

山本:ある人に言われました「ホールは、芸術創造の場であり何でも在りの場所、制約だけでは創造活動はできない。ただし、安全な維持管理と調整しながら、どこまで可能にしてあげれるかを考え、実現に努力してあげるのがホール職員の仕事」、まったくそのとおりだと思います。主演者や主催者が無理なことを言ってきても、いきなりだめは言わず、それを一度聞いて方法をいっしょに考え、不可能な理由を説明してあげることが大切です。

八板:名古屋市民会館の吉田廣嗣さんは「ホールの使用者の要求は、少しでも可能性があれば出来るように頑張のように」と檄を飛ばしているそうです。

木佐貫:私は、利用者や外来の技術者が声をかけやすい、ものを頼みやすい状況をつくる、それが第一だと思います。なんでも聞いてくれそうな腰の軽さというか。私は以前から「御用の際は内線○○番まで」というような張り紙が大嫌いなのです。そういうところは、実際控え室みたいなところに頼みに行くと、皆でテレビ見ていたりするんです。本当は別に仕事がある場合もあるでしょうが、張り紙じゃあ「どうせテレビでも見てるんだろう」くらい思われても仕方がない。そういうところで随分信頼を失っているのではないか。でも、そこに誰か一人でも立っていてくれれば、すぐに声をかけられるでしょう。利用者が受ける印象にもっと気を配るべきだと思います。

市川:正直なところ、ツアーをやっていると不親切な小屋が多いという印象があるんですがね。床に釘を打ってはいけないホールってまだありますし、外部の人間は音響調整室に入れてもらえないホールもあるんです。

佐藤:私たちのホールはコンサートホールなので釘は打てません。だから他の目的で使用するときは、照明さんや舞台さんの場合、大変です。毎回アイデアを出していただいて釘を使わなくても良いようにしています。調整室はシャットアウトしていません。調律師さんもお茶を飲みに調整室へ気軽に来られます。演奏家の方も、よくリハーサルの録音のプレーバックを聞きに来ます。そのときに当日の演奏プログラムの話をしたり楽器の話を良くしています。

長谷川:私たちのホールでは、釘打ち可能です。事前の打ち合わせによって音響調整室での作業も可能です。よほどの訳があれば別ですが一方的に会館からダメというようなことはないですね。

山本:ホール職員のスタッフも出演者も主催者もすべての人たちが朝の出会いの「おはようございます」から「お疲れ様でした」まで、ずっと笑顔で仕事ができたらいいですね。

佐藤:私は、現在のホール勤務になって一番先に心がけたことは、外部から来る音響さん、照明さん、演奏家の皆さんに満足し気持ち良く帰って頂くようにしています。

山本:私たちのところでは、最近、機材を持ち込まない業者が増えてきました。会館の設備が充分に対応できるからだということでしょうか。歓迎すべきことだと思います。これらはすべて県民の財産ですからどんどん活用してほしいと思います。昔は、ミキサーを持ち込んで送りでホールのスピーカを使っていたんですが、業者さんも会館の設備、機材を活用するようになってきました。

八板:都市部よりも地方のホールの方が優良ホールが多いですね。現在では各地で舞台技術者のセミナーを実施したりして、人が育ってきていますから、これからは地方の方がもっともっと良くなっていくと思います。良いホールには、良い親方(チーフ)がいます。そして、そのような先輩が後進に舞台における礼儀作法などをきちんと指導しています。

市川:そうですね、地方のホールは優良なホールが多いと思います。なかには中央の音響会社や照明会社で仕事をしていた人が地方のホールに小屋付きとなっているようなこともあり、技術そのものは優秀です

八板:その反面、技術は優秀だが中央の方ばかりを意識していて、地域の人たちと馴染まないため問題になっているホールもあるようですね。もう時代が変わっているのだから、中央、中央と偉ぶっては相手にされなくなってしまいます。地域に根差した運営をしないとそっぽを向かれます。札幌、滋賀、兵庫、大分、宮崎などのホールでは、舞台芸術の発信地になっています。

それにしても音響の人たちには、音響調整室に閉じこもり過ぎていませんか。もっと視野を広くしてはどうでしょうか。また、音響機器オタクでは仕事にならない。今はデジタル機器だから操作がしやすくなっているので、機械の扱い方よりも、むしろ音楽など何かを極めている人のほうが仕事ができる。

佐藤:その通ですね。ホールの調整室に閉じこもらないで、他のホールの演奏会、演劇を見に行ったり聞きに行くことも大切だと思いますし、演奏家の方たちと交流を持つことは、視野を広げる良い機会だと思います。チャンスは自分自身が作る物だと思います。

八板:公共ホールの技術者のみなさんは、なるべく外部と広くお付き合いをすべきだと思います。社交的な人たちがいるホールは、間違いなく良いホールですよ。

皆さんのお話を伺って、優良ホールの選定が間違っていないと安心しました。私は日本音響家協会を設立するときの目標の一つとして、小屋付技術者の技術向上と意識改革でした。この座談会で、着実に、その目標に向かっていると感じました。今後も、みんなでスクラムを組んで頑張りましょう。ありがとうございました。


【文責・青池佳子/清水御幸:2000年11月インターネット上で実施】